読書感想文

割と久しぶりな読書感想文です。
蝉しぐれ (文春文庫)
蝉しぐれ 著者/藤沢周平

三十石程度の軽輩の家の長男、牧文四郎は、豪快な親友・小和田逸平と秀才の親友・島崎与之介と、隣家の娘・ふくとの思い出を育みながら少年時代を過ごした。
やがて、その幸せな少年時代も理不尽な不幸と共に終わりを迎える。
それぞれの道へ進んでいく文四郎、逸平、与之介はそれでも友情を忘れず。
文四郎は隣家の娘・ふくに淡い思いを抱いた少年時代を胸に日々を過ごしていく。
そして、時が流れ――少年時代の淡い恋路の行方は、今また謀略により動き出す。


この作品の面白みは、実はこれが恋物語であるという点でしょう。
理不尽な不幸をはね除け、剣に打ち込む文四郎は、様々な人々と出会いながら日々を過ごしていきます。
その半生を綴っただけの物語でもありますが、その人生に描かれる友情、恋愛、悲劇はどれもこれも素晴らしい。
小さな幸せと不幸のエピソードが織り交ぜられた傑作と言っていいでしょう。


欠点らしい欠点は見あたりませんが、強いて言うならただ淡々と描写されていく日々に多少間延び感が出てきてしまうというところ。
一気に読み切る類の小説ではなく、じっくりと文字を追うべき作品とでも言うのでしょうか。


最初に述べたとおり、実はこの物語は恋物語なのです。
ラストでその恋が実るのか、想いを遂げることが出来るのか……
主人公・文四郎とふくの恋物語を、ぜひ一度見ていただきたい。